アストラルに魅せられて

アラサーOLまおのゆとりな徒然絵日記

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cuimhne #2 leanabh

 ここは車の中。久しぶりに会った父親に一緒に行くか?と聞かれ
ただただそれがうれしくて付いてきた。どこへ行くかも聞かなかったし
どこと言われても彼女にはそれが理解できるだけの知識も知能も持って
いなかった。どこへ行くのかという疑問すら頭に浮かばない。
母親も兄も付いてくることはせず、1ヶ月ぶりに会った父親を
独占できているという事だけは、3歳の彼女にも理解できた。
きっと楽しいところに連れて行ってくれる。
ワクワクしながら、最近覚えたばかりのきらきら星を力一杯歌っていた。

 雨は降ってなかったので、きっと天気は良かったのだろう。
いや、良かったに違いない。1ヶ月ぶりの父親とのデートの日が
晴れていないはずがない。が、実を言うとはっきりと覚えていない。
記憶の中に空はない。あえて言うと白だろうか。青い空であって
欲しいが、記憶の中にある空は白く光っていた。

「まっぴーは歌うまいなぁ。歌える歌は他にないんか?」

 娘の歌を聴きながらのドライブは快適だった。
1ヶ月ぶりに会った娘がうれしそうに歌を歌っているのを横目に
仕事へ向かうのも悪くない。そう言えば彼女の歌を聴くのはこれが
初めてだ。彼女と一緒に、いや家族と共に過ごす時間はあまりにも短い。
恵美が二人目、今横で歌っている娘を身ごもったくらいから、普段でも
忙しかった仕事は更に忙しくなった。
建設業界はどこも人手不足。新規の仕事の話は毎日のように数件入って
くる。3日間で断る仕事は10件を超えていた。いつも仕事をくれる元請け
だけでなく職人仲間、果ては聞いたこともないような他県の建築会社
までもが依頼の電話をかけてきた。これは正幸に限った話ではない。
日本全国、全ての業種で同じような事が起きていた。

 バブル景気。

 未曾有の超好景気により日本全国がお祭り騒ぎの様相を呈していた。
ひつこく何回も依頼をくれる県外の建築会社からの仕事を毎回断るのも
気が引けるので、今回は受けてみようと現地調査と打ち合わせのために
出向いたのだった。せっかく県外に出かけるので帰りに遊びに寄ったり
ご飯でも食べようと思っていたのだが、ついてきてくれたのは娘だけだった。
 この年の娘といったいどこへ行けばいいのかわからない。
自分もこんな年頃の時代があったはずなのに、何が楽しかったのか知って
たはずなのに。だが、助手席で歌っている娘とドライブするのも悪くない。
帰りはどこか温泉でも行けばいいだろう。そう思いながら正幸は
気分良くハンドルを握っていた。
 が、延々同じ歌が繰り返されると楽しいひとときも苦痛に変わる。
そろそろ何か違う歌でも聴いていないと眠ってしまいそうだ。
娘の気分を損ねないよう、正幸はそれとなくきりのいいところで声をかけた。

「まっぴー他の歌しらーん。
 きーらーきーらーひーかーるー
 おーそーらーのーほーしーよー♪」

 これは少し失敗したかもしれない。
正幸は半ばあきらめ気味に、ガムを口へ放り込んだ。

 大人であれば1時間程度のドライブは楽しいひとときで終わるが
3歳の子供には途方もない時間に感じた。高かったテンションも
次第に眠気の方が勝ってくる。心地よい車の振動も手伝ってか
本人も気がつかないうちに眠ってしまっていた。

 予定の場所に着いたが、眠ってしまった彼女は起きる気配すらない。
打合せの時間も迫っている事だし、エンジンをかけたままロック
していれば、娘の安全は確保できるだろう。打合せも30分程度で
終わるはずだし、眠っている間に戻って来られるだろう。
正幸はそう思い、気づかれないようゆっくりと車から降り
そっとドアを閉めると鍵をかけた。

「はよ終わらさんとな」

 独り言のようにつぶやき、敷地内にある現場事務所へと
小走りで向かった。





 どれくらい眠っていただろう。気がつくとエンジンは
かかっているものの、父親の姿はどこにもない。
窓から見える景色は知らない場所。木に囲まれた平地で
車は少し止まってはいるが、下は舗装もされていない砂利道。
見えるものは車と木だけ。

 パパはどこへ行ってしまったんだろう。
 パパが迷子になってたら大変! 

 父親の姿がなくて寂しいとか心細いといった感情は全く
湧くことはなく、探さなくてはという使命感のほうが彼女を支配した。
が、すぐに母親から言われた事を思い出した。

 こういう時には動いてはいけない。

 彼女は母親と一緒にスーパーへ買い物に出かけても、一緒に行動
することはほとんどなく、お菓子売場へ一目散に走っていく。
お目当てのお菓子を手に取ると、今度は迷子になってしまった
母親を探しに店内をつぶさに調べ回っていた。
2,3日前にも同じような事をして母親に叱られたばかりだった。

 一人になってしまったら動かず、その場で待っている事。
 知らない人が声をかけてきたら走って逃げる事。

 母親との約束を思い出した彼女は、約束通り車の中で待つ事にした。
窓の外を眺めたり、また歌を歌ったりして彼女は父親が来るのを待って
いた。ほんの10分くらいの時間だったと思う。だが、何もする事の無い
車内で、しかも3歳の子供にとっての10分は異様に長かった。
ふともう一度窓の外を見てみると砂利がとても気になった。

 今まで見た事も無い小さなかわいい石がたくさんある。
一度気になってしまうともう3歳児の好奇心を止める事はできない。
この石で遊びたいという気持ちを抑える事なんてできるはずもなく
彼女は車のドアを開けようとした。
 重たい開閉レバーを力いっぱい引くがドアは一向に開く気配はない。
鍵がかかっているという事をすぐに理解した彼女は、鍵を引き上げると
また力いっぱいドアの開閉レバーを引いた。

 正幸の誤算。まさか3歳の子供が車の鍵を自力で開ける事ができるとは
思ってもいなかった。が、普段から母親の買い物や、祖父照正と一緒に
出かけている彼女は鍵の開け閉めはもちろん、半ドアという言葉や意味
までも知っていた。

 ドアが重い。いつも乗っている車より大きな車というのが今度は
彼女の誤算だった。レバーを引きながら身体を押し当て、なんとか
ドアを開けようとする彼女。
 少しドアが動いたかと思うと、勢いよくドアが開いた。
彼女はレバーを握りしめたまま、そのままドアに引っ張られるように
体勢を崩してしまい、滑り落ちるように地面へと落ちた。

 白かった景色は一転、目の前が真っ暗になった。
幸いにして、開閉レバーを力いっぱい握っていたため
頭から落ちることは無かったが、ドアへ顔をこすりつけ
ながら落ちていた。

 痛さは感じない。ただただびっくりした。
あんなに重たかったドアが急に開くはずがない。
自分の思い通りにならなかった事に対する腹ただしさだろうか。
訳のわからない感情がこみ上げてきて、彼女は力いっぱい泣いた。

 普段であれば力いっぱい泣くと照正がどないしたんやと
笑いながら近づいてくるか、夜だと母親の恵美が走ってくる。
が、今日は誰も来ない。当然と言えば当然である。
今日は父親と二人っきりのデートだったにも関わらず
その肝心の父親は自分が寝ている間に居なくなってしまった。

 この状況も気に入らない。ママとの約束通り待ってるのに
パパは来る気配すらない。ママの嘘つき!!
自分が落ちた事のショックと想定外なドアの動きに対する怒り、
母親に嘘をつかれた事に対する怒り、なぜかいなくなった父親
への怒りで訳がわからなくなった彼女は、ひたすら力一杯泣いた。

 おそらくこの3年間で一番、いやそれから先もここまで
泣いた記憶は無い。しばらく泣いていたら疲れてきた。
もうなんで泣いていたかさえ、彼女は解らなくなっていた。
そんな時、聞き覚えのある声が彼女の名前を呼んでいる。
遠くの方から父親が知らない人とこちらへ駆け寄ってきている。

 それを見ながら、また更に泣く彼女。

 そして、そこから先の記憶は無い。その後一体どうなったのかも
帰りに予定通りどこかへ行ったのかも解らない。
泣き疲れて眠ってしまったのか、食事や飲み物はどうしたのか
さえも、綺麗さっぱり記憶からは無くなってしまっている。

「そういや、そんな事もあったよね。」

 もうすぐやってくる父の日のプレゼントを何にしようかと
考えていたら、ふと思い出した父親との初デート。
今年はもう何もいらないんじゃないの?と少し意地悪な顔を
しながら彼女の運転する車は実家近くの細い道へと差し掛かった。

 大通りが近いとは言え、田舎なので1つでも通りから外れると
防犯灯すら無い寂しい景色が広がる。
対向車もなく、月明かりに照らされた薄暗い周囲と
自車のヘッドライトによって浮かび上がってくる進行方向だけが目立つ。

 いつも通り15分程度の運転を終え、ガレージへと車をバックさせる。
ま、そのうち何か良いのを思いつくだろう。
考える事をやめた彼女は助手席に置いたバッグを手に取り
車の外へ出た。周囲には人の気配もなく、静寂に包まれていた。
今日の月は明るいなと、空を見上げながら彼女は家に入っていった。

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Comment

僕も子供の頃父ちゃんの仕事のトラックに乗せてもらっていろいろな所に行った記憶がありますわ(o^^o) 普段どんな仕事してるのか見れて楽しかったな〜♪( ´▽`)
  • posted by 東雲 桜
  • URL
  • 2014.06/16 12:13分
  • [Edit]

いやーん! もう!(どんな感想だよ)まっぴー泣いちゃう。ドキドキしながら読んだわ。情景描写の仕方、教えてくりょ☆(いちいち聞かないでパクれ)
  • posted by Jean Lagtheart
  • URL
  • 2014.06/16 18:06分
  • [Edit]

>桜さん
 おぉ、私は基本車で放置でした。。(^_^;)

>Jeanさん
 えww
 パクるほどイイ文章では無い気がしますが
 まぁその辺は気にせずどぞですww
  • posted by まお
  • URL
  • 2014.06/17 09:28分
  • [Edit]

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