アストラルに魅せられて

アラサーOLまおのゆとりな徒然絵日記

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cuimhne #1 co-latha breith

 今夜は風が心地良い。

  会社から出た彼女は少しばかり強く吹く風によって乱れた髪を手ぐしで
 直しながらそう思った。つい最近まで寒いと思っていたが、ここ数日は
 5月と思えないくらい、日中は暑かった。それでも朝晩はこの季節らしく
 少し肌寒く感じる日が多い。
 寒いのは嫌いだけれど、肌寒い程度が一番心地良く好きだ。
 
  こんな日が毎日続けば良いのに。

  無駄な願いをぼそっとつぶやきながら、彼女は自分の車へ乗り込むと
 ブレーキを踏み込み、エンジンスタートのボタンを押した。
 辺りは静寂なまま、車のインストルメンタルパネルとオート設定にしている
 ヘッドライトに灯がともる。
  エンジンをかけても音が聞こえないという、不自然な感覚は1ヶ月も
 するとそれが当たり前に思えてくるから、人間というものはつくづく不思議だ。
  3月の頭までは鍵を差し込みはしないものの、ハンドル下にある
 イグニッションを回し、エンジンを点火させていた。

  タチコマ。前に乗っていた愛車を彼女はそう呼んでいた。
 好きなアニメに出てくるマシンキャラクターの名称で、チャイナブルー
 の色合いと言い、丸みがかった車体と言い、この名前がぴったりだった。
 このマシンキャラクターの食玩までもフロントガラスの付近に飾るほど
 彼女はこの車を気に入っていたが、13万kmという走行距離と購入から7年
 という年月は、買い換えを考える1つのきっかけともなった。

  そして4月から上がる消費税。新しい車を購入するきっかけは消費増税と
 ちょうど車検が春に来る事、走行距離と所有年月と、いろいろ合わさった
 事もあったし、冬のボーナスが思った以上に良かった事も大きな要因だ。
 世間ではまだまだ景気が悪いと言われているが、彼女の勤める会社は成績
 が良かったし、営業という役割を担っている彼女の貢献も評価された。

  静寂な中で浮かび上がるハイブリッドカー独特のエネルギーモニターや
 デジタルメーターの中に、目立たずひっそりと時刻を刻んでいる時計は
 既に22時を30分ほど回っていた。
 
  普段通りの帰社時間。車だと15分程度の実家へ向け、彼女はアクセルを
 踏み込んだ。10mくらい無音のまま進むと、ようやく息をはじめたように
 エンジンがかかる。静寂だった夜に少しだけ音を響かせながら彼女は昔の
 事を思い出しながら家路へとついた。






 「すまん、遅ぉなってしもた。」

  慌てた様子で正幸が部屋に入ってきた。
 産まれる予定は明日だったので完全に油断しきっていたのだろう。
 引きつった顔をしながら、仕事場から慌てて来たのが見た目でもよく解る。

 「ええんよ。年度末やし仕事忙しいし。
  ひょっとして現場から抜け出してきたんとちゃうの?」
 「それこそどうでもええわい。それより身体はいけるんか?
  ちゃんと無事に産まれてきたんか?」
 「うん、それはご心配なく。まっぴーやったらよー寝てるわ。」

  そう言いながら恵美が布団をめくると、傍らで眠っている赤ちゃんが
 姿を現した。周りでこれだけ騒いでいるにもかかわらず起きる気配は全く無い。
 微動だにせず、すやすやと眠るその顔はとても穏やかな顔をしていた。
  名前は既に決まっていて「幸せが舞い降りてくる」という意味の名前だった。
 本人としては気に入っているが、この意味は後付けで、性別が女と解った時に
 正幸の頭の中に読み方だけが降りてきたらしい。漢字も当て字であった。
 あだ名は「まっぴー」。母親に付けられたこの愛称も本人は凄く気に入っている。

  恵美は、二人目の出産という慣れとも余裕とも言える気分が先行し、
 家事や一人親方の正幸の手伝いなどを精力的に行っていた。
  義理ではあるが、祖母や両親と同居していたので甘える事もできたが
 やはり嫁という立場ではそうする事もなかなか出来なかった。小学校へ上がった
 ばかりの長男、守通は義父や義母がよく面倒を見てくれていたが、家事や
 建具大工で生計を立てていた正幸の手伝いは、誰も変わる事が出来きず
 恵美本人でさえも変わる気すら到底無かった。

  世間はバブル景気という未だ日本が経験した事も無い超好景気へ向けて
 まっしぐらに突き進んでいた。特に建設業は人手不足が目立っており、内装
 を主に手がけている建具の世界も例外なく人手が足りていなかった。
 恵美は元請業者への請求や入金、資材業者への支払いなど、金銭的な手伝い
 のみならず、倉庫にある資材類の管理までしていた。
 正幸はこの業界の親方にはよくある性格で、どんぶり勘定を旨としていたので
 特に苦労していた。

  そしてこの冬は特に寒い冬であり、年が明けた1月早々、かなり強い寒気が
 流れ込み、西日本は記録的な大雪となった。しかしそんな日でも正幸は
 現場へと向かった。正幸は仕事が好きだったし、そんな彼を恵美も愛していた。
  炊事や洗濯など、一通り家事を終わらせたその日の夕方、どうやらお腹が
 張っている気はするものの、特に気にも留めずトイレへ向かうが、そこで恵美は
 驚愕する。

  出血してる。

  長男の時には特に何もなかった。今回もそうだろうと高を括っていた。
 パニックになりながらも、居間でテレビを見ていた義父に告げ、大雪の中
 病院まで連れ行ってもらった。怒られると思っていたが、義父は何も言わず
 ただ黙ってゆっくりと、安全に運転をしてくれた。
 通院している病院はかなり近所にあり、通常であれば5分もすれば着くのだが
 大雪のこの日はいつもの3倍ほどの時間がかかってしまった。

  診察の結果は切迫早産。その日のうちに入院となり、筋弛緩の点滴を受けた。

 「ホンマ無理したらあかんで。家事や子守は和子ばーちゃんや、紀代子が
  やってくれるから心配するな。ワシは・・・何ができるかわからんけど
  まぁ何かするわ。せやから心配せんと、ちゃんと寝ときや。」

  点滴で頭がぼーっとしてるなか、義父の照正は正幸が駆けつけるまで
 ずっとそばにいて、いろいろとしゃべってくれていた。恵美としては
 黙っていてくれたほうが気分も身体も楽だった。
 が、きっと照正も不安なのだろうと思い、自分のこれまでの行動を後悔した。

 「すんません・・・。」

  かろうじて出た言葉はこの一言だった。

 「あほぉ、今更言うても始まらんし、心配するな言うたばっかりやないかい。
  ほんで正幸はポケベル鳴らしといたさかいに、そのうち家に電話
  してくるやろ。ほんまアイツはこんな日にも仕事仕事や。」
 「あの人は仕事が好きやから・・・。」

  そこから先の記憶は無かった。どうやら眠ってしまったようで
 気がつくと夫の見慣れた顔が目に入ってきた。

 「すまんなぁ、いけるんか?」

  今まで見た事も無いような泣きそうな顔をしていた。

 「ん~、わからん。わからんけど、きっと大丈夫や。まっぴーも。」
 「そうか。せやな。俺らの子やもんな。うん、きっと大丈夫や。」

  お互い不安なのは十分解っていた。大丈夫という言葉も相手を落ち着かせる
 と言うよりも自分自身に言い聞かせる為に言ったに近い。

  その後安定してきたものの、実家は遠いし、家にいると絶対安静は無理と判断し
 出産まで入院となった。逆にその方が恵美自身も家族も安心が出来た。長男の
 守通を除いて・・・ではあったが。

  それでも元気になってくると入院生活は続けられない。
 およそ2ヶ月の入院で退院することが出来た。守通は喜んだが、他の家族は
 歓迎していなかった。やはりまた無理をするという不安があったからだ。
 このままの調子で行けば予定日は3月21日、春分の日。
 忙しい年度末と言えども祭日なのは正幸にとってもありがたかったが、得てして
 世の中そんなに巧くはできておらず、皆の不安はある意味的中する。
  結局、家に帰った恵美は家事をごそごそとやってしまい、大事には至らなかった
 が、家族全員をやきもきさせた。その後、予定日よりも早く 産気づき、20日のお昼頃
 以前と同じように義父に病院まで連れて行ってもらい入院。
 そしてその日の夕方、関西地方のとある場所。昭和という1つの大きな時代も
 終盤に差し掛かった丙寅の年、彼女は産声を上げた。
 その年の厳しい寒さは、ようやく一息をつこうとしていた。
 
 


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Comment

なんだ〜〜⁉︎ 最後まで読んだけどここまでコメント入れるのが難しいの初めてやぞいやΣ(゚д゚lll) 英語が読めないからタイトル分かんないけどとりあえず♯がついてるから続くんだろうな位しか分かりません(´・Д・)
  • posted by 東雲 桜
  • URL
  • 2014.05/28 11:27分
  • [Edit]

なんとなく…
自分達の事も思い出すねw
  • posted by candy
  • URL
  • 2014.05/28 12:29分
  • [Edit]

No title

ぼーくらはみんなーいーきているー♪
いきーているからうたうんだー♪
と、本来生きていないはずの思考戦車(ロボットの様なモノ。言うまでもないか)に歌わせる辺りが…
まおーさん生誕秘話よりタチコマに反応するいからであった。
  • posted by いから
  • URL
  • 2014.05/28 13:15分
  • [Edit]

りなの出生…かぁ…

とりあえず、「3人目(私のことね)は 産むつもりはなかった」、と、母がいった、と、姉から聞かされたことはある。

ホントお手間とらせて申し訳ありませんでした、とは思う。
  • posted by りな
  • URL
  • 2014.05/28 18:45分
  • [Edit]

!

なんだろ!すごくおもしろい。ワクワクして読んじゃった。きっと続きがあるのね。いや、なくてもいいわ。あらためて思うが、まおさんいろんなこと知ってるし、ただ尊敬あるのみ。てゆーか、こんな褒め方で伝わるか心配だが。

追伸:リニュアルすてきだw(これを言い逃したの)
  • posted by Jean
  • URL
  • 2014.05/29 06:33分
  • [Edit]

No title

>桜さん
 (ΦωΦ)フフフ…
 ヒント:英語じゃないんだな☆
 まぁただの独り言ですので~。

>candyさん
 自分たちの事ですか~。
 それはそれで気になります(`・ω・´)

>いからさん
 www
 誰かは反応するかなと思ったけどいからさんでしたか(´∀`)
 かわいいよね、タチコマ。

>りなさん
 ヾ(゚Д゚ )ナデナデ

>Jeanさん
 ありがとです(´∀`*)ポッ
  • posted by まお
  • URL
  • 2014.05/29 07:28分
  • [Edit]

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